独自の学校設定科目「国際表現」のプロジェクトとして翻訳ボランティアにご参加頂いている 岡山県立総社南高等学校さま のお取り組みを、奥侑樹先生にうかがいました。
総社南高校は、岡山県総社市にある県立高校で、1986年に開校しました。校訓「誠実・創造・友愛」のもと「人文・理数・国際・美術工芸」の4つの系で、学校設定教科「表現」における問題解決型学習や「総合的な探究の時間」における課題探究型学習など、多彩な学びの機会を創出しています。部活動や地域貢献活動なども盛んで、生徒たちは校内外様々なフィールドで学んでいます。
グローバル教育に関しては、オーストラリアにある姉妹校への短期留学や留学生の受け入れ、オンラインでの交流活動などを行っています。姉妹校に留まらず、タイからの長期留学生やドイツからの高校生の学校訪問の受け入れも行っています。また総社市日本語教室や近隣自治体での国際フェスティバルなどにボランティアとして参加する機会もあります。
ICT教育に関しては、生徒全員が1台ずつ iPad を持ち、学習に活用しています。「善く使う、安全に使う」をモットーに、デジタルデバイスの活用を通じて、どのように自分の力を伸ばすかを意識した教育を行っています。デジタルシティズンシップエデュケーションにも取り組んでおり、生徒主体で「善い使い方、安全な使い方」を学んでいます。
明るく活発で、何事にも積極的に取り組む校風です。優しく、「誰かの役に立ちたい」という気持ちを持った生徒が多くいます。吉備高原を北に抱き、緑豊かな自然と、多数の古墳、桃太郎伝説や雪舟にゆかりのある史跡など歴史や文化に囲まれた環境で落ち着いた学校生活を送っています。
総社南高校の4つの系(人文・理数・国際・美術工芸)の一角をなす系です。美術工芸系と共に、総社南高校の代名詞とも言えます。オーストラリアの姉妹校をはじめとした海外との交流だけでなく地域に住む外国出身の方との交流にも力を入れています。
国際(international)の名の通り、国・言語・文化・価値観を「越境」し、行ったり来たりすることをテーマに学んでいます。学校設定科目「国際表現」において、シェイクスピアの英語劇に取り組んだり、日本語教室に参加したりしています。海外で活躍する人だけでなく、地域社会で多文化共生の実現に貢献できる人を育てています。
今年度(2023年度)から立ち上げた学校設定科目「国際表現」で取り組むプロジェクトを検討していた際、東京の広尾学園中学校高等学校を訪れました。そして、広尾学園が翻訳ボランティアに取り組んでいることを知りました。
以前より自身の経験から、外国語学習、価値観や文化的な背景を異にする他者を学ぶことにおいて、翻訳は非常に有用であると考えていました。言語の間を行き来し、それぞれの言語における思考や文化のクセや枠組みと対峙し、それを言葉として表現する中で言葉や文化、価値観と正面から向き合う必要があるからです。
翻訳ボランティアの存在を知った際に、これだと思い、絶対に総社南高校で実践しようと決意しました。その後、理事の中村さんにコンタクトを取り、ミーティングを重ねながら選択授業の受講者を対象にパイロット的に取り組みを始め、今年度から「国際表現」のプロジェクトの一つとして実施しています。
授業内での学習活動の一環として立ち上げました。生徒を2人1組に分け、全員でコースの候補となる動画を視聴した後、自分たちのペアが取り組みたい動画を選んで取り組みました。最初は、翻訳と言われてもイメージがあまりつかず、何をやる(やらされる?)のという感じでした。動画を見て、その内容に興味を持ち、キックオフミーティングで何をするのかを理解すると好奇心をそそられ、やってみようという気持ちになっているようでした。
週に2-3回ある授業の一部の時間を使って翻訳作業に取り組みました。やり方はペアによってさまざまでした。翻訳する箇所を分担したり、一緒に調べ物をしながら作業を進めたりしていました。
授業だけでは物足りない生徒は、放課後の時間に作業を進めたり、自宅で取り組んだりしていました。クラウド上で作業ができるので、いつでもどこでも学習に取り組めるのが良かったです。メモ欄を使って、生徒同士でコミュニケーションを取りながら作業を進めていました。
メモ欄やワードリストによって、自分たちだけでなく、次に作業をする人の作業しやすさを視野に入れることができる生徒が増えたように思います。
授業が終わる度に、教員が生徒の翻訳にコメント機能を使って働きかけを行いました。直接添削するのではなく、「ここをもう少し考えてみよう、ここの意味がよくわからない、こういう意味にもとれる」などの問いかけをすることで、生徒たちは、自分たちで考えながら翻訳を進めることができたように思います。
翻訳が完了した後、自分たちの行った翻訳と動画を並べて全員で視聴し、翻訳と動画の整合性をチェックしました。
生徒はフォルダやファイルの管理( Google Drive に限らず)やプロジェクトシートを使ったプロジェクト管理に慣れていないので、そういったプロジェクトの進め方にとまどっていました。しかし、これは慣れの問題であり、翻訳自体はもちろんですがプロジェクトの進め方に関するメタ的な学びがあったように思います。
翻訳という活動は、あまり生徒受けはしないかなと予想していましたが、想定以上に興味を示したり、翻訳に面白さや喜びを見出したりする生徒が多かったように思います。機械翻訳に頼っても乗り越えられない言語の壁に気づいたり、翻訳者としてどういった言葉を翻訳として選ぶかに悩んだりしていました。
AFP WAA のSDGs 動画( [AFP WAA] SDGs:平和と公正 1)では、そこで扱われる社会問題に興味を抱いていました。MIT の動画( [MIT+K12] Science Out Loud 5、[MIT]サイエンス・ブート・キャンプ)では、普段使う言葉が自然科学の文脈ではまったく異なる使われ方をしていることに驚いていました。
加えて MIT の学生の様子が、自分たちが予想していたアメリカのエリート学生のイメージとまったく異なることに驚き、親近感を抱いていました。
翻訳ボランティアの終了後は、レポートの提出を生徒に求めています。また、翻訳ボランティアのみにフォーカスしたものではないですが、生徒への個別インタビューを行っています。それらから生徒の多くが何らかの学びを翻訳ボランティアの活動から得ていることがわかります。
翻訳を通じて、言葉に対する気づきが高まり、言葉に対する感度が高まった生徒が多いなと思いました。実際に翻訳をしてみて、言語と言語の間に横たわる溝を実感し、それでも翻訳者として言葉を選ばないといけないという経験は生徒にとって非常に良い経験であったように思います。
今年度 MIT の動画を取り扱いましたが、いわゆる理系の内容について苦手意識を持っている生徒も多いので、若干不安がありました。しかし蓋を開けてみると、その不安は杞憂に終わりました。生徒が理系の学習に苦手意識を持っていることは事実ですが、MIT の動画、英語といった別の角度からそれらに触れることができたことが新鮮だったようです。
また個人的に、物理の学習内容は英語で学ぶ方がわかりやすいと感じています(私自身高校時代に物理で挫折しましたが、後年英語で物理の内容を学習して腑に落ちた経験があります)が、それと同様の感想を抱く生徒が複数いました。苦手なものにも、別の視点や角度から接すると違った見方ができるというのを生徒が学ぶことができた点が良かったと思います。
動画を選定してから作業用のシートができるまでのタイムラグがあるので、それを考慮したスケジューリングをする必要があります。生徒にプロジェクトシートなどを使ったプロジェクトマネジメントに関する指導をする必要があります。
Google のコメント機能を用いた指導は個人的には非常にやりやすく、意義を感じていますが、それを校内の他の教員にまで広げていくことが難しい面があります。しかし、今後もこのプロジェクトを継続していくためには、その難しさを乗り越える必要があると思っています。
非常に意義のあるもので、今後も継続していきたい。生徒にとっても非常に学びの多い活動であると考えています。一方で、英語を中心に授業を受け持つ人間としては、成果物である日本語字幕動画をユーザーとして授業において使うことが難しく、申し訳なさを感じています。また生成AIの勃興により、翻訳ボランティアのニーズがなくなっていくのではないかという一抹の不安も感じています(翻訳ボランティアの教育効果は確固たるものであると確信していますが)。
翻訳を通じて得た学びや翻訳という営み自体、また翻訳した内容などを「総合的な探究」における取り組みに発展させる等を行いたいと考えています。
◇よくみる単語にも日常的な意味と専門用語で異なる意味があるので、難しかったです。普通の辞書や機械翻訳では日常的な意味しかなく、専門用語を調べるのが大変でした。しかし、そこに面白さを感じました。
◇プロジェクトについて聞いた際に、楽しそうだなと思いました。字幕は普段はユーザーとして使うだけのものだったので、それを作る側になれたのが良かったです。また動画の字幕はこんな風に作るんだというのを知ることができて面白かったです。
◇インフォーマルな会話調の翻訳をするのが大変でした。普段は英語から日本語にする時は、フォーマルなものが多いので、動画の雰囲気に合った日本語を考えるのに難しさを感じましたが、面白かったです。自分の苦手な物理に関する内容でしたが、英語だと少しわかりやすく感じました。
生徒たちの苦労しながらも楽しんでいる様子が印象的です。翻訳ボランティアを通して、日本語、外国語の両方について深く学び、その知識を生かして地域社会とも一層強く結びついていってくれることを期待しています。
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